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なぜテクノロジは重要なのか
今日の世界は試練に満ちている。われわれの頭は、経済崩壊や社会不安、軍事紛争、環境破壊への心配で疲弊している。最近では、生き残りとリスク削減 のことばかり考えている。こんな状況で、成長やイノベーションについての名案が浮かぶだろうか? イノベーションやテクノロジにはまだ次のサイクルが残っているのだろうか? つまるところ、テクノロジは本当に重要なのか? われわれを一晩中悩ませる難題を解決してくれるのだろうか?
Scott Anthony氏は米Innosight社1の社長で、『明日は誰のものか : イノベーションの最終解』[宮本喜一訳、ランダムハウス講談社刊]という本をClayton Christenson氏と共同で執筆している。米Harvard Business Publishing社が主催した音声会議『The Silver Lining2』(希望の光)において、Anthony氏はイノベーションの重要性について語り、経済が厳しいとき に革新的なテクノロジを生み出した企業に関する興味深い話を語った。その一例は、John H. Patterson氏が1884年に米NCR社を創業したとき、小売店の店員による計算ミスを解決する技術を製品化したという話だ(NCR社は今や年間売 上高約50億ドルの企業に成長した)。1884年といえば、欧州の金準備が減少したことで、米国の経済が停滞していた時代である。時代の雰囲気は、リスク を回避し、生き残りに集中しようというものだったことは間違いない。そのような時代にPatterson氏と同僚たちが製品化したキャッシュレジスター は、売買における現金のやりとりという重要なことが、革新的な手法や技術によって改良できると示した機械だった。
これこそテクノロジの意義である。「Technology」という単語には、2つのギリシャ語──芸術や工芸や手法を意味する「Techne」と、 言葉や対話や知識を意味する「Logos」──が含まれている。つまりテクノロジとは、何かをより良く行う方法を、知識の説明や実体化により行うことと関 係がある。現代のテクノロジは、一連の手段、実行を助けるもの──何かを行う最善の方法を説明する手段──であり、プロセス──知識──は、手段のための ツールと知識の組み合わせである。
図1:ローマの技術者が積み上げた支持壁。主構造と直交する。
建築におけるテクノロジの役割を考えてみよう。何世紀も前、ローマの技術者たちは、ダム建設の際に主構造と直交する支持壁を積み上げることで増強で きることに気づいた。Patterson氏がキャッシュレジスターの量産を始めたのとほぼ同じころ、建築家たちはスチールフレーム(鋼構造骨組)を考案し た。建築と建設の分野では次々と発明が生まれ、物理的な環境を改善するため、絶え間なく新製品が世に送り出された。具体的には、新しいタイプの照明、建 材、建築プロセス、垂直輸送システム、ビルディング・エンベロプ(建物の外装構造により外側と内側の環境を分離する仕組み)、冷暖房などである。
図2:テクノロジとは?- 大切な目的に向けて最良な行動を起こすためのツールと知識
テクノロジは、電源コードがつながった機械の箱だけを指す言葉ではない。生き物のようにダイナミックに変化する環境に対応するアイディアや、知識と 発明を通じて目の前の難題に対処する手段を包括する概念である。Christopher Alexander氏らは1977年と1979年にそれぞれ、『パタン・ランゲージ:環境設計の手引3』、『時を超えた建設の 道』[いずれも平田翰那訳、鹿島出版会刊]を出版した。この2冊は、自然・人工の物質界と人間の相互作用を考慮した建築・土木設計のベストプラクティスと いう、ある種のテクノロジにおける哲学を定義していた。興味をそそられないだろうか? 建築におけるこのアプローチにより、規律の範囲内でベストプラクティスを行う体系化された手法である「パタン・ランゲージ」は、一般的な概念へと広がっ た。コンピューター業界はこの概念に夢中になり、ソフトウェア開発がオブジェクト指向モデルに進化した。このモデルは、特定のソフトウェアの構成要素に関 する特性を、要素自体とともにパッケージ化するというものである。今では、パタン・ランゲージをテーマにした本は、建築よりソフトウェア開発関連のほうが 多くなっている!
現在、人工的な環境のデザインや建設において、再び著しい変化が起きている。手書きやCADによる製図などの伝統的な技術は、「BIM(ビム):ビ ルディング インフォメーション モデリング」というテクノロジに取って代わられようとしている。デザイナーはBIMを利用することで、プロジェクトの仮想モデルをコンピューター上で作成 し、建物の構成要素と、それらが実世界でどのように機能するかという関連情報を、ひとつのパッケージにまとめて提示できるようになる。BIMを用いてデザ インに柱や窓を加えるとき、情報のデータベースが構築される。技術者はこれを基に、最も有効な構造を導き出せる。機械工学の専門家は、エネルギーが最小限 で済む空調システムを考えられる。施工業者は経費や無駄を最少に抑えた最も効率的な工事を計画できるだろう。これらはサステイナブルな建設の重要な要素で ある。
図3: BIMテクノロジが、デザインや建設に進化の機会をもたらす
テクノロジは常に、個人・グループ・コミュニティーの能力の拡張と広範囲にわたる社会の大きな前進に貢献してきた。Patterson氏が製品化し た初期のキャッシュレジスターの設計意図は、小売店の店員が釣り銭を正確に計算できるようにし、経営者が自身の事業をより良く理解できるようにするという ものだった。ダムの支持壁、スチールフレーム、パタン・ランゲージのおかげで、人工的な環境は新たな高みに達し、人々の経験に深みを与えた。
なぜテクノロジが重要なのか? それは、テクノロジが社会の忠実なしもべとして、増え続ける世界の人口に食料と住居と仕事を行き渡らせる、気候変動などの地球規模の問題に取り組むといっ た目標の実現を助けてくれるからだ。テクノロジは、創造的な手法や知識そのものであり、それはつまり、まさに革新的ともいえる視点を私たちに与える。そし て、私たちが関わる社会、経済、環境の難題を解決するのに必要なものだからこそ重要なのだ。そうしてようやく、われわれは心配事から解放され、安眠を手に 入れることができるのである。
1 http://www.innosight.com/index.html
2 http://blogs.harvardbusiness.org/anthony/2009/02/answers_to_the_silver_lining_a.html
3 http://www.patternlanguage.com/
協力:WIRED VISION BLOGS